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朝比奈・瑞貴が倒れた。


一気に戦場を駆け抜けたその報を耳にして、ああ、そうか、とただそれだけを思った。

ひどく疲れていた。
いつもの、戦いの熱に浮かされた様な昂揚なんてものはどこにも無く、ただ妙な疲労感だけが身体を覆っていて、山中に移動した後は糸が切れた様に動けなくなった。
記憶もどこか曖昧だった。翌朝、重い身体を引き摺る様にして帰路に着いたその足で、学園に寄った事は覚えている。
いつもの試合を終えた後は挨拶もそこそこに自宅に引き返し、早々とベッドに倒れ込んで、——気付けば日が変わり、陽はとうに昇りきっていた。
重傷を負ったというわけでもないのに、おかしな話だった。
けれど、おかしかったのはその数日だけで、後は拍子抜けする程いつも通りの日々が続いている。

終わったのだな、と思う。
土蜘蛛の女王は倒れ、戦争は終幕を迎えた。
長く長く続いたお話は、これでお仕舞い。それが事実で、受け入れるべき現実らしい。
満足した訳ではない。納得できた訳でもない。
結局あの乱戦の中、己はあの女王に一撃をくれるどころか、姿さえも碌に確認出来ていないのだ。それに対する悔しさと、けれどそれで良かったのかも知れないという相反した気持ちが、未だ胸の中では渦巻いている。
だが、それを引き摺った所でこれ以上先が見込める訳でもない。
言葉にならないものは色々とあるが、それらも含めて全て飲み込むべきだと、思う。
元々どこかで区切りはつけるべきで、そうして今回以上にそれに相応しい時期はないのだろうから。

晴れ渡った秋空の下を、清涼な風が吹く。
最近随分と冷え込んできた空気の中でそれを吸い込み、そうして静かに息を吐いた。
戦争が始まるよりもずっと以前から、胃の下辺りに重く凝っていたものがあった。けれどそれはいつの間にやら、ふわふわとした空虚感の様なものにすり替わってしまっている。
随分と軽くなった自分の身に、ああ、俺は沈んでいたのかなと今になって漸く合点がいった。

桜の花が咲き誇る季節に、あの凶報が届いてから半年。
最後に直接言葉を交わしてからを数えれば、もっと長い。
遠かった。
けれどそれもやっと、終わるらしい。

お帰り。そして今度こそ本当に、——さよならだ。

今はもう居ない少女の名を、胸の内でそっと呟いた。
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